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熊本大学 プレスリリース 2020年6月30日

 熊本大学先進マグネシウム国際研究センター(センター長:河村能人)は、KUMADAIマグネシウム合金の強靭化(きょうじんか)に成功しました。これにより、従来の航空機用高強度アルミニウム合金に匹敵する破壊靭性※1と最大15%程度の軽量化が可能な機械的強さを持つ“軽くて強くてタフなマグネシウム合金”を実現することができ、航空機実装化を大きく前進させることができました。

 マグネシウム金属は、実用金属の中で最も軽く、航空機や自動車などの輸送機器の軽量化を担う環境に優しい次世代の軽量構造材料として注目されています。特に、2015年に米国の連邦航空局(FAA)が、民間航空機のマグネシウム使用禁止令を解除したことから、航空機分野においてマグネシウム合金の研究開発が活発に進められています。熊本大学の先進マグネシウム国際研究センターは、これまで高強度と高耐熱性と難燃性を併せ持つ「KUMADAI耐熱マグネシウム合金※2」を開発して、基礎と応用の両面から研究開発を進めてきました。特に、KUMADAI耐熱マグネシウム合金が、FAAのマグネシウム燃焼試験に合格したことから、航空機用構造材料として注目され、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「次世代構造部材創製・加工技術開発」プロジェクトにおいて、熊本大学は三菱重工業㈱と共同で研究開発を進めてきました。

 航空機用構造材料には、軽量性の他に、機械的強さと、き裂に対する抵抗力が求められています。つまり、「強さ」だけではなく、傷ついてもなかなか壊れない「しぶとさ(タフさ)」が求められています。一般的な傾向として、降伏強さ※3が高い材料ほどタフさを表わす破壊靱性は低下するので、強さと破壊靭性の両立は困難であると言われていました。既存の高強度マグネシウム合金は、航空機用高強度アルミニウム合金に比べて、軽さと強さを表わす比降伏強さ※3が約5割、また破壊靭性値が約1割低く、航空機用構造材料としては問題がありました(図1)[1][2]。また、熊本大学の独自技術である超急冷法(図2)を用いて作製したKUMADAI急冷耐熱マグネシウム合金は、既存の航空機用高強度アルミニウム合金に比べて、比降伏強さが5割以上高く、航空用構造部材を大幅に軽量化できる可能性がある一方で、その破壊靭性は従来のマグネシウム合金並みに低く、航空機用高強度アルミニウム合金の破壊靭性の下限値(18 MPa√m)にも及びませんでした(図1)[1]

 今回、KUMADAI急冷耐熱マグネシウム合金の製造プロセス条件と合金成分の最適化によるナノ組織制御(数100ナノメートル※4での組織制御)によって約1.5倍の強靭化に成功し、20.5 MPa√mという高い破壊靭性値と220 kNm/kgという高い比降伏強さを両立することができました(図1)。従来の航空機用高強度アルミニウム合金に匹敵する破壊靭性と15%程度の軽量化が可能となり得る機械的強さを持つ“軽くて強くてタフな航空機用マグネシウム合金”を新たに開発できたことから、KUMADAI急冷耐熱マグネシウム合金の航空機への実装化が大きく前進しました。

 今後は、①更なる高強度化と強靭化ならびに不燃化を図るとともに、②具体的な航空機部品の試作とその評価をボーイング社(The Boeing Company)などの国内外の航空機メーカと共同で進めていく予定です。また、それと併行して、③素材の低コスト・量産技術の開発を素材メーカと進め、開発したマグネシウム合金の航空機実装化を推進していく予定です。

参考文献
[1] J.R. Davis, Aluminum and Aluminum Alloys, ASM Specialty Handbook, ASM International, Materials Park, OH, 1993.
[2] Elektron WE43B: Magnesium Elektron Datasheet.
 
語句説明
※1 破壊靭性(Fracture Toughness): き裂・き裂状欠陥を有する材料の「き裂の進展に対する抵抗力」のことであり、傷ついても壊れにくい「しぶとさ(タフさ)」のことである。実際の材料は表面に傷などのき裂・き裂状欠陥を有するので、輸送機器部材等を設計する際、ある程度の欠陥の存在を想定して、その不可避的な欠陥を有する場合でも安全性を確保できる設計手法が採用されており、このような設計手法は 「損傷許容設計」 と言われている。この場合、材料の破壊靭性値が重要なデータとなる。同じ種類の金属材料で比較した場合、一般的傾向として、降伏強さが高い材料ほど破壊靱性は低下するので、強度的により優れた材料の開発にあたっては、降伏強さと破壊靱性の両方をバランス良く向上させることが求められる。一般的に、国際標準規格(ASTM規格)に準拠して、図3に示すCT試験片(コンパクト・テンション「Compact Tension,CT」試験片)を用いた測定が行われる。マグネシウム合金に関しては、このASTM規格に準拠して測定した破壊靭性値(KIc)のデータは、マグネシウム合金の強さが低すぎるために、数えるほどしか公表されていないのが現状である。

※2 KUMADAIマグネシウム合金: 熊本大学が開発した合金であり、主に2種類ある。一つは、Mg-Zn-Y系(マグネシウムに亜鉛とイットリウムを添加)のKUMADAI耐熱マグネシウム合金であり、高強度と高耐熱性と難燃性を併せ持つ。もう一つは、Mg-Al-Ca系(マグネシウムにアルミニウムとカルシウムを添加)のKUMADAI不燃マグネシウム合金であり、高強度と不燃性と高耐食性を併せ持つ。それぞれ、鋳造材を塑性加工する「鋳造法」や溶けた合金の溶湯を毎秒10万℃の冷却速度で急速に凝固させた粉末や薄帯を固化成形して塊にする「急冷法」を用いて作製される。本研究で開発された「KUMADAI急冷耐熱マグネシウム合金」は、急冷法で作製したKUMADAI耐熱マグネシウム合金のことである。急冷法を用いることで、数100ナノメートル以下の超微細結晶組織が得られ、高強度や高耐食性など、通常の鋳造法では得られないような優れた材料特性が得られる。

※3 降伏強さと比降伏強さ: 材料は荷重をかけていくと弾性変形(バネのように、除荷すると元の形に戻る)するが、ある荷重を超えると塑性変形(除荷しても永久変形が残る)するようになる。この弾性変形から塑性変形に遷移する時に材料にかかっている荷重を断面積で割ったもの(単位面積当たりの荷重)を降伏強さという。比降伏強さは、その降伏強さを材料の比重で割った値(単位重量当たりの降伏強さ)であり、材料の軽さと機械的強さを表している(比降伏強さが高いほど軽くて強い)。

※4 ナノメートル: 1ナノメートルは10憶分の一メートル(10-9メートル)のことであり、また100万分の一ミリメートル(10-6ミリメートル)のことである。ナノ組織とは、数100ナノメートル以下の超微細な組織のことを言う。

※5 ASTM規格: 世界最大規模の標準化団体である米国試験材料協会(American Society for Testing and Materials: ASTM、現在はASTM International)が策定する規格であり、世界標準の国際規格のこと。
 

お問い合わせ先
●研究内容に関すること
  河村 能人 (カワムラ ヨシヒト)
  国立大学法人 熊本大学 先進マグネシウム国際研究センター
  教授/センター長
  〒860-8555 熊本市中央区黒髪2-39-1
  Tel:096-342-3721  Fax:096-342-3721
  E-mail: rivervil@gpo.kumamoto-u.ac.jp
 
●プレスリリースに関すること
  濵田 聡太 (ハマダ ソウタ)
  国立大学法人 熊本大学 総務部総務課 広報戦略室
  〒860-8555 熊本市中央区黒髪2-39-1
  Tel:096-342-3271  Fax:096-342-3110
  E-mail: sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp

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          ~航空機実装化へ大きく前進~ は
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